技術コラム金属の硬度測定方法|
破壊検査と非破壊検査別の手法を解説

自動車など人命にかかわる工業製品の部品において、強度(硬さ)を担保することは必要不可欠です。そのため、サンプルを抽出して行う破壊検査による硬さ試験を行います。しかし、車体プレス部品メーカーにおいて1社あたり毎月1,000回以上の破壊検査を行い、その廃棄コストは数百万円にものぼるといわれています。また、SDGsの観点からも破壊検査が必ずしも好ましいとはいえません。

そこで、有効なのが非破壊検査による硬さ試験です。ここでは破壊検査/非破壊検査、双方の硬さ試験を紹介したうえで、硬度測定に有効な磁気特性を利用した硬さ試験、そしてそのための検査装置を紹介します。

硬度測定器|非破壊による金属の全数自動検査

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硬度測定とは

硬度測定とは

硬度とは硬さのことをいい、硬度測定とは数値化された硬さを測ることをいいます。

破壊検査では基本的に試験片に球状や針状の圧子を押し付けて荷重を加え、変形量に応じて硬さを数値化します。ただし、硬さの数値は一様に決まるものではなく、同じ試験片(同じ硬さ)でも試験方法によって数値が異なります(各々の硬さは換算可能)。

一方、非破壊検査は超音波や磁気、電気などを利用して行います。

破壊検査による硬度測定の方法

ブリネル硬さ試験

ブリネル硬さ試験では、ある直径(1mm、2.5mm、5mm、10mmのいずれか)の超硬合金球を、決められた試験力で試験片に押し付けて力を取り除いた後、試験片に残ったくぼみの直径から硬さを求めます。

ブリネル硬さ試験は、いくつかある破壊検査の中でも試験力が大きく、局所的な硬さではなくそれらを均した硬さを求められます。そのため、鋳造品や鍛造品、そして熱処理品などの硬さ試験に用いられます。

ロックウェル硬さ試験

ロックウェル硬さ試験では、超硬合金球や鋼球(スケールにより直径3.175mm、あるいは直径1.587 5mmを使用)、あるいは先端の曲率半径0.2mm・円錐角120°の円錐型ダイヤモンドの圧子(A、C、Dスケール)を、荷重をかけて試験片に押し込みます。荷重をかけるのは初試験力と全試験力の2回であり、初試験力をかけたときの押し込み深さを0として、全試験力をかけた後に初試験力に戻したときの押し込み深さから硬さを求めます。

全試験力が比較的小さい領域を特に「ロックウェルスーパーフィシャル硬さ」と呼び、これは薄板や熱処理を施した表面硬化材などの硬度試験に向いています。

ビッカース硬さ試験

ビッカーズ硬さ試験では、対面角136°の正四角錐のダイヤモンド圧子を試験片に荷重をかけて押し込み、荷重を除去したあと試験片に残ったくぼみ(永久くぼみ)の両対角線の長さから硬さを求めます。

ブリネル硬さ試験やロックウェル高度試験と比較すると、ビッカーズ硬さ試験の特徴として、均質な試験片に対しては荷重の大きさによらず硬度の値が一定になります(硬さの相似則)。そのため、面積が小さく薄い試験片では低荷重、比較的大きく厚い部品では高荷重と、汎用性の高い対応ができます。

ショア硬さ試験

ショア硬さ試験では、ダイヤモンドのハンマーを試験片に対して直角に落下させ、跳ね上がった高さから硬さを求めます。上記三つの硬さ試験が圧子による変形量から硬さを求めるのに対して、ショア硬さ試験は試験片の反発力から硬さを求めるのが特徴です。

電源がない環境でも試験できるため、圧延ロールや鉄道レールなど比較的大きな構造物の硬さ試験も可能です。

ヌープ硬さ試験

ヌープ硬さ試験では、対稜角の一方が172.5°、もう一方が130°である四角錐のダイヤモンド圧子を試験片に荷重をかけて押し込み、除去した後に残るくぼみのうち、長い方の対角線の長さから硬さを求めます。

同様の試験機を用いて試験することや、硬さの数値が近くなることなどビッカーズ硬さ試験との共通点が多いのが特徴です。しかし、ヌープ硬さ試験の方が硬度の変化に対して敏感であることや、ビッカーズ硬さ試験に比べてくぼみの深さが約半分になることから、比較的浅い表面に近い部分の硬度測定に向いているといわれています。

非破壊検査による硬度測定の方法

非破壊検査による硬度測定の方法

超音波の伝播特性による検査

超音波とは一般的に20kHz以上の高い周波数をもち、人間の耳には聞こえない音のことをいいます。超音波の伝播特性は一定でなく、硬度によって反射の強弱があったり、超音波のエネルギーの減衰度合いが変わります。その特性を利用したのが、超音波の伝播特性による検査です。

破壊検査と異なり、稼働中の設備や使用中の部品でも測定できるため、航空機や構造物の定期検査に適用可能です。

磁気特性による検査

磁気特性による検査では保持力を利用します。保持力とは炭素鋼などの強磁性体が磁化された後、磁化されていない状態に戻すために必要な反対方向の外部磁力のことです。

磁性体に磁石の一方の極を近づけると、磁化されて磁束密度が大きくなり、やがて飽和状態になります。その後、磁石を離して磁力をゼロにした後、磁石の反対側の極を近づけると当初と反対方向に外部磁場が大きくなっていきます。しかし、残留磁化があるため磁束密度がゼロになっても磁力がゼロになりません。この時、磁力をゼロにするためには、はじめと同じ極の地場を与える必要があります。残留磁化がゼロになったときの外部磁化の強さを保磁力といいます。

炭素鋼に熱処理(焼入れ)を行って硬度を高くすると、保持力が高くなる性質があります。磁気特性による非破壊検査では、保持力と硬度の相関関係を用いて硬度測定を行います。

検出原理として磁気特性を使用するため、強磁性体(磁石がつく材料)が対象となります。具体的には鉄鋼材料全般や、マルテンサイト系ステンレス材(SUS403やSUS410など)の材料において測定可能です。

電気特性による検査

炭素鋼に熱処理(焼入れ)を行うと電気抵抗が低くなり、導電率が高くなる性質があります。この性質を利用したのが電気特性による非破壊検査です。

検出原理として電気特性を利用するため、導体が対象となります。

硬度測定に最も有効なのは磁気特性による非破壊検査

これまで紹介した硬度試験のうち、もっとも有効だと考えられる試験方法はどれでしょうか?まず、破壊検査と非破壊検査を比べると、言うまでもなく検査ロスの点で非破壊検査の方がメリットがあります。

次に三つの非破壊検査を比較すると、超音波による検査や電気特性の検査に比べて、磁気特性による検査では硬度の差がより大きく測定値(保磁力)の差として検出されています。つまり、よりセンシティブに硬度の違いを検出できるという意味において、磁気特性を利用した硬度試験が最も有効であると考えられます。

非破壊硬度検査が可能な硬度測定器の紹介

非破壊硬度検査が可能な硬度測定器の紹介
  • ①コイル1へ外部磁界を発生させる電流
  • ②測定材に外部磁界Hが発生
  • ③検知コイル発生した電流信号を測定し磁束密度Bを導出

コイルを巻いた鉄心(コア)を測定対象部に接触させて電流を流すことで、外部磁界が発生します。そして、別のコイル(検知コイル)で電流を測定することにより磁束密度を求められます。さらに、磁束密度や外部磁界の強さから保磁力を求めて硬度に換算することで、非破壊の硬度測定(キャリブレーションによる推定)が可能です。

上記のコイルや鉄心を検出センサとして使用して、金属の硬度を測定するのが非破壊金属硬度測定システムです。検出センサを測定部に接触させるだけで、簡単に硬度測定ができます。

ラインナップは次の二種類です。
●NDH-30:検出センサを二つもち、AC電源により動作
●NDH-20:検出センサを一つもち、USB電源により動作

測定対象物の近くまで装置を運搬しやすい移動BOX仕様や、より多くの測定を同時に行える検出センサ4個同時測定プログラムもあります。

また、硬度以外にもプレス強度や溶接不具合なども検出可能です。

破壊検査から生ずる廃棄コストの削減や、検査コスト(工数)削減にお悩みを抱えるメーカーの担当者は、磁気特性を利用した非破壊硬度測定器を検討してみてください。

硬度測定器|非破壊による金属の全数自動検査

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