技術コラムボルトやねじ締め付け時における
トルクと軸力の基本知識

世の中にある工業製品は、家電のような小さな物から船舶のような大きな物まで、多くの部品の組み合わせによってできています。部品同士を締結する方法はいくつかありますが、オーソドックスな締結方法の一つがねじ締結です。この記事は、ねじ締結の品質に直結するトルクと軸力について理解を深められる内容になっています。

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ねじ締結のメリット

ねじによる締結には、他の締結方法と比べて以下のようなメリットがあります。

  • 取り外しと再組み立てが容易
  • 設計の柔軟性
  • 異種材料の接合
  • 低コスト
  • 高い汎用性

ねじ締結はメンテナンスや修理の際に部品を簡単に取り外して再組み立てできますが、溶接やリベットでは、一度締結すると取り外しが困難または不可能です。また、設計変更や部品の交換が容易であり、製品の改良や更新に適しています。

異種材料の締結にも使えることも大きなメリットです。溶接では同種の金属しか接合できず、リベットでも材料の組み合わせに制限があります。

ねじは標準化された部品であり、汎用性が高いため大量生産により低コストで供給されます。また、締結方法が単純なため、溶接やリベットに比べて比較的経験の浅い作業者でも的確に扱えます。

ねじによる締結を理解するために

ねじを使用して適切な締め付けを行うためには、トルクと軸力の基本概念を理解することが重要です。トルクとはねじを回転させるためのモーメントのことで、軸力はねじの軸方向に発生する引張力のことです。

トルクとは何か

トルクの定義

トルクは、ボルトやねじを回転させるためのモーメントのことをいいます。トルクの大きさは、力の大きさと力点から支点までの距離(モーメントアーム)に比例します。例えばスパナのような工具を手に持ってねじを閉めるとき、工具を持っている点が力点、工具の回転中心が支点です。つまり、工具にかける力は同じでも、モーメントアームが長いほど大きなトルクを発生させることができます。反対に例えば、モーメントアームが1/2でも2倍の力をかければ、トルクは同じ値となります。

トルクの注意点

前述の通り、モーメントアーム、つまり長い工具を使えば小さな力でも大きなトルクを発生させることができます。ただし、モーメントアームを長くしすぎるとねじに過大なトルクがかかり、ねじ頭破損の恐れがあります。ねじの強度区分はねじ頭に印字されているため、必ず確認して既定値以上の力をかけないようにしましょう。

軸力とは何か

軸力の定義

軸力はねじの軸方向に発生する力です。例えば、2枚の上下に重なった板があり、その下にナットがあるとします。上からねじを挿入して締め付けていくと、2枚の板の軸方向に圧縮力が生まれます。この圧縮力が軸力です。締め付けによって生じる軸力は締結部材を圧縮し、ずれや緩みを防ぐ役割を果たします。

軸力が生み出す圧縮力の重要性

軸力が大きいほど締結部材間の圧縮力が強くなり、より強固な締結が実現します。十分な軸力が得られない場合、締結部材間にすき間が生じ、外力によってずれや緩みが発生する可能性があります。一方、軸力が過剰な場合、ねじや締結部材が損傷したり、破断したりするかもしれません。そのため、締結材同士を固定でき、ねじが緩まず破断しない適切な軸力が必要です。

トルクと軸力の関係

トルクと軸力の関係

トルクによる軸力の発生メカニズム

トルクを加えてボルトやねじを締め付けると、ねじが伸びることで軸力が発生します。ねじの材料特性により、弾性域内で伸びることでばねのような働きをし、軸力を発生させます。

ねじが断線変形するメカニズムについて順を追って説明します。ねじを締め付けることにより、ねじは締結部材やナットの方向に進んでいきます。しかし、ねじの座面が非締結部材に接触(着座)した後も締め付けると、ねじとナットの間に締結部材があるため、ねじが軸方向に引っ張られるのです。このとき、ねじは軸方向に弾性変形しているため、締め付ける力を取り除くとねじは元の長さに戻ろうとします。このとき、発生する力がねじの軸方向における弾性力であり軸力なのです。

トルクと軸力の比例関係

トルクと軸力には比例関係があり、トルクが大きいほど軸力も大きくなります。ただし、この比例関係は、ねじの材質や寸法、潤滑状態などの影響を受けます。そのため、同じトルクを加えても、条件によって発生する軸力は異なります。

一般的にはかけたトルクのうち、50%が座面の摩擦力、40%がねじ山の摩擦力になり、軸力となるのは10%程度といわれています。そのため、同じトルクをかけても摩擦や潤滑の状況により軸力が変わるのです。

軸力の重要性とトルクの補助的役割

締結の品質を左右するのは軸力であり、トルクはあくまでも軸力を発生させるための手段です。適切な軸力を得るためには、トルクを適切に管理する必要があります。ただし、トルクの管理だけでは十分ではなく、ボルトの材質や潤滑状態などの影響も考慮しなくてはなりません。

トルクと軸力に影響する摩擦

トルクと摩擦の関係

トルクと軸力の関係は、摩擦の影響を大きく受けます。ねじの座面や谷部分の摩擦が大きいほど、同じトルクでも軸力が小さくなります。これは、加えたトルクの一部が摩擦力に費やされ、軸力の発生に寄与しないためです。

軸力と摩擦の関係

軸力と摩擦の関係も重要です。軸力が大きいほど、締結部材間の摩擦力も大きくなります。この摩擦力は、締結部材のずれを防ぐ役割を果たしますが、過度な摩擦力はボルトの回転を妨げて軸力の発生を阻害します。

摩擦係数の変化が与える影響

摩擦係数の変化は潤滑状態や表面粗さ、材質などによって生じます。摩擦係数が低いと同じトルクでより大きな軸力が得られますが、摩擦係数が高いと軸力が低下します。そのため、締め付け条件に応じて適切な潤滑剤を選択したり、表面処理を施したりすることが重要です。

締め付けトルクの管理

軸力測定の難しさ

トルクを管理することで一定程度の軸力管理は可能ですが、トルクと軸力の関係において摩擦の影響を受けるため、トルク管理だけでは完璧な管理はできません。理想的には、軸力を直接測定して管理することが望ましいですが、コストや技術的な制約から実際の生産現場では難しいのが現状です。

例えば軸力を測定する機器の一例として、中心に穴の空いた円盤状のロードワッシャーという測定機器があります。締結部品とナットの間にロードワッシャーを入れて計測しますが、計測後はロードワッシャーを外す必要があります。ロードワッシャーを外すためには一度ナットを外す必要があり、ふたたび締結するときには測定時と軸力が変わってしまうのです。

他にはボルトの伸びを計測する超音波ボルト軸力系という測定機器もあります。しかし、プローブが接触できる程度にねじの端面を平滑にする必要があったり、そもそもすべてのねじを計測するのが現実的でなかったりします。

トルクの管理方法

多くの生産現場では、トルク管理が一般的に用いられています。トルク管理には、トルクレンチやトルク測定器などの工具を使用します。また、トルク管理の精度を高めるために、定期的な校正や管理値の見直しを行うことが必要です。

まとめ

ねじは汎用的で利便性の高い締結部品です。しかし、適切に利用するにはトルクと軸力について理解しておく必要があります。小さなねじ一本の緩みが重大なインシデントに発展することもあるため、細部にも気を使う必要があります。基本的な知識を深めてねじのメリットを享受しましょう。

ねじ締めにおける着座前の異常を検知

山善が提供する「電動ナットランナ」を現場へ導入することで、締め付け開始から終了までの作業を“可視化”し、ねじ穴の位置ずれや異物混入によるねじ浮きなどといった問題がなぜ発生したのかがわかるようになります。

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