技術コラムトルク、軸力、摩擦の関係と計算方法

ねじ(ボルト)はシンプルな構造ながら、大きな締結力を安定して発揮する便利なものです。しかし、ねじを適切に扱うには、ねじにかけるトルク、ねじが発する軸力、トルクや軸力と摩擦の関係を理解しておく必要があります。この記事は、トルクと軸力、それに摩擦力の関係と計算方法について理解を深められる内容となっています。

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トルク、軸力、摩擦の関係

トルク、軸力、摩擦の相互作用

締付技術において、トルク、軸力、摩擦は密接に関連しています。トルクはねじを回転させる力、軸力はねじの軸方向に発生する引張力、そして摩擦はこれらの力の伝達に影響を与える要素です。

締め付けプロセスではトルクを加えることでねじが回転し、その結果としてねじに軸力が生じます。この軸力が締結部品を圧縮し、部品同士を固定します。しかし、この過程においては摩擦も重要な役割を果たすのです。

トルクや摩擦が軸力に与える影響

トルクと軸力の関係は一見単純に見えますが、実際には摩擦の影響を大きく受けます。一般的に加えられたトルクのうち約90%が摩擦によって消費され、軸力に変換されるのはわずか10%程度です。

具体的には以下のようになっています。

  • ねじ座面の摩擦:約50%
  • ねじ山の摩擦:約40%
  • 軸力:約10%

この比率は締結条件によって変動しますが、摩擦が軸力の発生に大きな影響を与えていることがわかります。

軸力や摩擦の変化とトルクの関係

摩擦係数が変化すると、同じトルクを加えても発生する軸力が大きく変わります。例えば、摩擦係数が0.18(乾燥状態)から0.12(軽潤滑状態)に変わると、同じトルクでも軸力は約50%増加します。

このように、摩擦の状態が変化すると、トルクと軸力の関係も変化します。そのため、単純にトルクだけで、安定した締め付けを実現するのは難しい場合もあります。

トルクと軸力の計算式

トルクと軸力の比例関係式

トルク(T)と軸力(F)の関係は、以下の式で表されます。

T = K × F × D

ここで、
T:トルク
K:トルク係数
F:軸力
D:ねじ径

トルクと軸力の比例関係式

この式は、トルクと軸力が比例関係にあることを示しています。ただし、この関係は理想的な条件下でのものであり、実際の締め付けでは様々な要因によって変動する可能性があります。

トルク係数(K)の意味と役割

トルク係数(K)は、トルクから軸力への変換効率を表す係数です。この係数は主に摩擦の影響を反映しており、理想的な条件下では0.2〜0.3程度の値になります。

トルク係数は以下のような要因によって変動します。

  • ねじとナットの材質
  • 表面処理の状態
  • 潤滑状態
  • 締め付け速度

ほかにもねじの硬度や締結する部品の素材(特にタッピンネジの場合)、それに座面やねじ部の表面の粗さも関係します。また、トルク係数の値が小さいほど、同じトルクでより大きな軸力が得られるという関係になります。

ねじ径(D)が与える影響

ねじ径(D)は、トルクと軸力の関係に直接的な影響を与えます。一般的に、ねじ径が大きくなるほど、同じ軸力を得るために必要なトルクも大きくなります。

これはねじ径が大きくなるとねじの断面積も増加し、より大きな力に耐えられるようになるためです。ただし、ねじ径が大きくなると締め付けに必要なトルクも大きくなるため、適切な締め付けツールの選択が重要になります。また、着脱が必要な部品の場合、外すときにも同等のトルクが必要です。

摩擦係数の計算と影響

摩擦係数の定義と計算方法

摩擦係数(μ)は二つの物体の接触面における、摩擦の大きさを表す無次元の数値です。摩擦係数は摩擦力(F)を垂直抗力(N)で割ることで求められます。

μ = F / N

ねじ締結における摩擦係数は、主に以下の二つの部分で考慮されます。

  • ねじ座面の摩擦係数
  • ねじ山の摩擦係数

これらの摩擦係数は材質、表面処理、潤滑状態などによって変化します。表面粗度が高く、表面の微小な凹凸が大きいと摩擦係数は大きくなり、潤滑油などで潤滑されていると反対に摩擦係数は低くなります。

摩擦係数の変化が軸力に与える影響

摩擦係数の変化は、発生する軸力に大きな影響を与えます。例えば、前述のように摩擦係数が0.18から0.12に低下すると、同じトルクでも発生する軸力は約50%増加します。

摩擦係数の変化が軸力に与える影響

逆に、摩擦係数が増加すると、同じトルクでも発生する軸力は減少します。これは、より多くのエネルギーが摩擦によって消費されるためです。

トルク/摩擦と軸力/摩擦の関係性

トルクと摩擦、軸力と摩擦の関係は以下のようになります。

トルクと摩擦

  • 摩擦が増加すると、同じ軸力を得るために必要なトルクが増加
  • 摩擦が減少すると、同じ軸力を得るために必要なトルクが減少

軸力と摩擦

  • 摩擦が増加すると、同じトルクで得られる軸力が減少
  • 摩擦が減少すると、同じトルクで得られる軸力が増加

この関係性を理解することは、適切な締め付けトルクを設定する上で非常に重要です。

締め付けトルクの設定方法

目標軸力から締め付けトルクを計算する方法

目標軸力から締め付けトルクを計算するには、先ほどの式を変形して使用します。

T = K × F × D

ここで目標軸力(F)がわかっている場合、適切なトルク係数(K)とねじ径(D)を用いて、必要な締め付けトルク(T)を計算できます。

例えば、M10ねじ(D = 10mm)で10kNの軸力(F)を得たい場合、トルク係数(K)を0.2と仮定すると次のようになります。

T = 0.2 × 10,000N × 0.01m = 20 Nm

摩擦係数の変動を考慮した締め付けトルクの設定

実際の締め付け作業では、摩擦係数の変動を考慮する必要があります。一般的には、以下のような方法が用いられます。

  • 安全係数の導入
  • トルク範囲の設定
  • トルクと角度の組み合わせ法

ねじ締結に関わらず、製造業の世界では安全係数(安全率)の考え方がよく用いられます。ねじ締結の場合は、部品締結に必要なトルク値を算出しても、そのトルク値でねじを締めることはしません。計算値に1.2〜1.5倍程度の安全係数をかけて、摩擦変動など不測の事態(軸力不足)に備えるのです。

算出したトルクに安全係数をかけて目標トルクを決めたら、そのトルクでねじを締めます。しかし、あまり厳密に管理しすぎると非効率的になってしまいます。そのため、±10〜15%程度の許容範囲であれば適切な値とみなし、許容範囲分は安全係数で吸収するのが有効です。

ねじを締めるとき、例えば穴に対してねじが傾いていると、早い段階で(回転数が少ない段階で)大きなトルクが必要となります。しかし、そのまま締めても正しく締結できないばかりか、ねじや部品を破損させる恐れがあります。そこで、回転数も同時に監視することで、妥当な回転数(めねじと噛むねじ山の数)がわかったうえでトルクを管理できるのです。

適切な締め付けトルクの重要性

適切な締め付けトルクを設定することは、製品の品質と安全性を確保する上で非常に重要です。締め付けトルクが不適切な場合、以下のような問題が発生する恐れがあります。

  • トルクが低すぎる場合:締結部の緩み、漏れ、振動による損傷
  • トルクが高すぎる場合:ねじの塑性変形、破断、締結部品の損傷

そのため、適切な締め付けトルクを設定し、それを確実に実現できる締め付けツールを使用することが重要です。

まとめ

締付技術は、一見単純に見えて実は非常に奥が深い技術分野です。トルク、軸力、摩擦の関係を正しく理解し、適切な方法で締め付けトルクを設定・管理することで、製品の品質と安全性を高めることができます。継続的な学習と実践を通じて、より高度な締付技術を習得していくことが重要です。

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