技術コラム工場勤務者必見!
暑さ対策の完全ガイド|
個人でできる熱中症対策

職場で起こり得る労働災害はさまざまですが、これからの季節に特に注意したいのが熱中症です。これに関連して労働安全衛生規則が改正され、2025年4月15日に公布、6月1日に施行されます。

そこで、本記事では職場において労働者個人で取り組める熱中症対策を紹介します。

工場勤務者が直面する暑さのリスク

熱中症の要因はさまざまです。まずはどのような要因があるのか考えてみましょう。

工場勤務者が直面する暑さのリスク

作業環境要因

はじめに考えなければならないのが、作業環境による要因です。例えばボイラーや炉など、高温状態になる機械のそばで行う作業は、そもそも熱中症のリスクが高い状態といえます。また、熱源となる機械がなくても、密閉空間や太陽光などの輻射熱を受ける環境での作業も、熱中症リスクの要因となります。

個人要因

作業環境要因と同様に、個人的な事情による要因も熱中症リスクを見積もるうえで考慮しなければなりません。例えば睡眠不足が続いていたり、前夜の飲酒によって体調が万全でなかったりすると、熱中症のリスクを高めることになります。また、年齢による体力低下やその日に摂取した水分が少ないといったことも、個人要因の一つです。本来、人間の体は周囲の環境に徐々に順応する力があります(順化)。しかし、年齢を重ねるにつれてその能力が衰え、暑い環境に慣れるまで時間がかかるようになります。

事故統計(厚生労働省のデータ)

厚生労働省の報告「令和6年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況」によると、2018年をピークに減少傾向にあった熱中症による労働災害の死傷者数が、2022年に827人、2023年に1,106人と増加し、2024年には1,195人とさらに増加したことがわかります。

平均で約100人/月であり、熱中症が特に多い6月〜9月に集中的に発生したと仮定すると約300人/月です。熱中症による労働災害が一定程度多いと考えられます。

暑さが体に与える影響とサイン

どのような症状があらわれたら、危険な状態なのでしょうか。具体的な症状と危険レベルの判断方法を考えます。

熱疲労・熱けいれん・熱射病の違い

熱疲労や熱けいれん、そして熱射病という言葉は耳にするものの、その症状には違いがあります。

まず熱疲労とは、体内の塩分(電解質)と水分が過剰に減少した状態で起こります。血液量が減少するため、失神を含むさまざまなショック症状が起こる可能性があります。

次に熱けいれんは、発汗で失った水分を補給するとき、水分だけを補給すると体内の電解質濃度が下がり発生します。電解質濃度の低下により、筋肉が収縮して緊張し、痛みを伴うようになります。症状の程度としては、熱疲労より熱けいれんの方が軽度です。

最後に熱射病は、熱中症の症状のうち最も重いものです。他の症状とは異なり、著しく体温が上昇します。これにより、内蔵など多くの器官系が損傷をする機能障害のリスクが高まります。

代表的な症状チェックリスト

熱中症になると、具体的にどのような症状があらわれるのでしょうか。以下の症状がある場合は熱疲労、熱けいれん、あるいは熱射病の可能性があります。

まず熱疲労の場合には、次のような症状があらわれます。

  • めまい
  • ふらつき
  • 筋力低下
  • 疲労
  • 頭痛
  • かすみ目
  • 筋肉痛
  • 吐き気
  • 嘔吐

一方、熱けいれんの場合には、筋肉の収縮とそれに伴う痛み(けいれん)が発生します。そして熱射病では一般的に体温が40℃を超えたり、脳機能障害や多臓器不全に陥ったりします。

同僚など一緒に働いている人にこのような症状がみられた場合、救急の要請などすぐに然るべき機関に連絡する必要があります。また、救急隊が到着するまでの間には、スポーツドリンクや塩分を含む水による水分補給、霧吹きや流体(水、風)を用いた体の冷却が必要です。

危険レベルを判断するWBGT値の見方

WBGTとはWetBulb Globe Temperatureの略称で、湿球黒球温度あるいは暑さ指数と呼ばれる指標です。単位は気温(室温)と同じ「℃」を使用しますが、計算では気温だけでなく湿度や周辺の熱環境を考慮するため、気温とは別の概念です。

環境省の「熱中症予防情報サイト」によると、WBGTによるレベル分けがされており、厳重警戒(WBGT28℃以上31℃未満)は「外出時は炎天下を避け、室内では室温の上昇に注意する」とされています。実際、WBGT28℃を境に熱中症患者発生率(労働災害ではない)が上昇しており、「WBGT28℃」がWBGTを管理するうえでの一つのボーダーとなっています。

個人レベルでできる暑さ対策

工場で実施すべき3層式暑さ対策

熱中症は非常に怖いものです。熱中症を防ぐために、個人としてどのようなことができるのでしょうか。

冷却ベスト

近年増えてきたのが、冷却ベストです。冷却ベストとは、名前の通りベストの形状をしており、着用することで上半身を中心に体を効果的に冷却するものです。さまざまな方式があり、ファンがついていて風(空気)を供給するものや、ベスト内部にパイプが配管されていて水分を循環させるものなどがあります。

水分・電解質補給ルール

冷却ベストなどのハード対策も重要ですが、そもそも体内の水分(電解質)量を一定以上に保つソフト対策も重要です。一般的には、のどが乾いたと思った時点ですでに水分が失われているといわれています。そのため、のどが乾かなくても水分を補給するくせをつけたり、一日の水分摂取量を決めて管理するのもよいでしょう。

会社が行う対策はこちらから。

おすすめ暑さ対策グッズ5選

ここでは、おすすめの暑さ対策グッズを5つ紹介します。

表1.個人で買える有効な熱中症対策グッズ

グッズ 特徴/仕様 科学的裏付け 適用WBGT コスト感
空調服
(ファン付きウェア)
衣服内を強制換気 衣服内水蒸気密度を低下させ、快適性を維持 25℃~30℃ ★★
冷却ベスト
(水循環/氷蓄冷)
体幹部を集中的に冷却 温冷感を約3℃改善 26℃~32℃ ★★
ネッククーラー 首周りを集中的に冷却 5分で約1℃の冷却効果 25℃~28℃
瞬間冷却剤 特定の箇所を集中的に冷却 −10℃まで冷却。保冷時間は約40分 25℃~30℃
スポーツドリンク
電解質飲料
脱水時の水分と電解質の補給 脱水症状の改善(血清総たんぱく質濃度低下) 全域

コスト感:★=低、★★=中、★★★=高

このように個人で行える熱中症対策はいろいろあります。会社が実施してくれる対策に頼ることも大切ですが、まずは自分の身を自分で守れるようにしましょう。